経営情報

Improvement of Small Business
中小企業の経営改善手法

1.経営者の決意

 日本の中小企業は概して財務基盤が脆弱だと言われます。また、自立性企業が少ないとも言われます。サブプライムローン問題に端を発して、今世界中が未曽有の不況に晒されていますが、このままでは多くの中小企業が存続不能となる恐れがあります。
『もともと景気頼みであり、今回も景気の回復を待つだけ』
『政府が思い切った中小企業対策を打ってくれなくては困る』
『大企業ならともかく、我々には経営改善などできない』
『ヒトもモノもカネもない。仕事をとっても赤字になる』
あちこちからこのような声が聞こえて来そうですが、手をこまねいているだけではいけません。自分の会社は自分で良くしていくしかありません。

 ドラッカーは『企業の目的は顧客の創出であり、その目的を達成するためにはマーケティングとイノベーションという機能が不可欠である』と言っています。20世紀後半から現在までの経営学に関する書籍は、すべてこのドラッカーの言葉の敷衍に過ぎないと言っても良いかもしれません。
 経営改善のためには真っ先に経営理念の明確化が必要であると言われます。自分の会社は何のために、どんな目標で経営を行うかを明確にして組織内で共有しなければならない。そして経営理念を実現するための経営基本方針を打ち立てて戦略的経営計画を策定するという手順です。
確かに、経営理念の明確化も中期経営計画の策定も必要なことでしょう。しかし、中小企業の経営改善にとって最も大事なのは、改善手法などではなく経営者が本気になることです。小さな企業にとっては経営理念も経営計画も敢えて文書化する必要などないかもしれません。でも、経営者が真剣に経営改善に向き合わない限り何も変わりません。

 中小法人の7割近くが赤字の状況でなかなか改善の兆しが見えませんが、企業の継続のためには必要利益の確保は当然のことです。赤字の企業は黒字体質への転換が急務です。
『この仕事は絶対に成功させる』とか『今年度は絶対に黒字にしてみせる』といった固い決意が必要なのです。経営者に熱意がなくては部下も動いてはくれません。絶対に達成しなければならない目標を定め、それを企業内で共有することから経営の改善が始まります。何よりも経営者の決意が不可欠です。

2.赤字経営は偶発事象

 有名な評論家の話を聞く機会がありました。決算公告を促進するという会合だったと思います。その方は、『何年間も赤字決算を繰り返している企業が存在するということが信じ難い』というようなことを言っていました。確かに、企業は赤字では継続できません。しかし、多くの中小企業が連年赤字決算を続けているということも事実です。国税庁の統計では、平成19年度分の法人259万4,214社から、連結子法人(6,130社)を除いた258万8,084社のうち、欠損法人は173万5,457社で、欠損法人の割合は67.1%となっています。連年赤字の法人も少なくありません。中小零細企業では、赤字でもやめるにやめられず、経営者の個人資産をつぎ込み、親類縁者から借入れし、更には高利の金融業者から借入れをしてまでも続けるということが珍しくはありません。しかし、その実態に疎い人々にとってはやはり信じ難いことなのかもしれません。

彼らの言う通り連年赤字というのは異常な事態であり、あってはならないことなのです。資本金1千万円で株式会社を設立したとします。初年度で2百万円の赤字を出したとすると、第1期末には純資産(会社の正味財産)は8百万円に減少します。この状態を5期間続けると会社の純資産はゼロになります。第6期目からは1円もお金を使えないことになります。これでは会社は経営を継続できません。
そうなる前に金融機関から融資を受け、そのお金で経営を続けます。もちろん、借りる時には返すつもりでいます。しかし、利益が出る企業体質にしなければ借金は返せません。赤字になればまた借り入れをし、銀行がだめなら自分の資産をつぎ込み、それがなくなれば親類縁者から借入れし、挙句は高利の金融業者からということになってしまいます。

これでは顧客に対しても満足なサービスの提供などできません。資金繰りに追われる毎日が続き、いつか資金がショートしてしまいます。企業が存続するためには、必要最低限の利益の確保は絶対に必要です。ドストエフスキーの小説に『貧乏は恥ではないが、赤貧は罪である』という言葉があったと記憶しています。個人生活においてならまだしも、企業の経営においては決して反論できない言葉でしょう。
赤字経営は偶発事象であるという認識が必要です。今期不可抗力で赤字になったのなら、次期は絶対に黒字にしなければなりません。仕事は降ってくるものではなく、創り出すものであり、顧客に価値を提供することが企業の役割なのです。やはり企業は黒字が当たり前なのだということを再確認して、創業当時の夢の実現に邁進しましょう。

3.わが社は何業なのか?

 時々お客様から『今、どんな業種がいいのだろうね?』と聞かれます。答えに窮します。競争相手が少なくて利益率が高い業種?そんな業種があるでしょうか?あれば他所から参入して来て、競争が激化して利益率も下がります。参入障壁が高い業種?それには独自の技術やノウハウあるいは権利などを持っていなければなりませんから、簡単にはいきません。そんなことよりも、現在の自社の置かれた立場と内部のスキルに関してじっくりと考えてみることが大事でしょう。

 わが社は顧客に何を提供して対価を得ているのか?わが社が提供する物やサービスは顧客に喜ばれているのか?顧客はわが社に何を期待しているのか?わが社は今後顧客の期待に応えられるか?顧客の期待に応えるためには何が必要か?
これらの問いに対してポジティブな答えが出せないとしたら、明日からといわず今からもっと真剣に企業経営に取り組む必要があります。そうでなければ業種転換をするか廃業するかしかありません。厳しい言い方かもしれませんが、資本主義社会とはそういうものなのではないでしょうか。小さな企業でも企業として存続するためにはそれなりの覚悟が必要です。

 現実の問題としては、多くの中小零細企業が自社と同業他社との比較において競争優位性が見出せずにいることも事実です。世界を相手にする中小企業などとしてマスコミに取り上げられるのはごくごく一部に過ぎません。そのような企業の取材を通じて、中小企業の成功の秘訣などを説くことも必要かもしれませんが、多くの中小零細企業にとってはあまり参考にならいでしょう。「今のままでは駄目なことは分かっている。でも、カネもモノもヒトもない。どうしたらいいのか」というのが正直なところかもしれません。

 しかし、それでも企業経営をしている以上は最善の努力をして企業を存続させる必要があります。現状の経営資源を最も有効に活用して今まで以上の価値を生み出すことが出来ないか?現在の顧客にもっと良い製品・商品あるいはサービスを提供できれば、現状は好転するでしょう。そのためにはわが社は何業なのかをもっと深く考えることが重要です。それは産業分類の業種ではなく、顧客に何を提供する企業なのかということであり、それが明確になれば、改善すべき何かが見えてくるはずです。

4.企業経営に役立つ指標値は何か

 管理会計という会計の分野があります。企業の業績と財政状況を外部に報告する財務会計に対して、企業の経営管理に役立てるための会計という位置づけです。
 管理会計では決算書の数値をいろいろといじくりまわして様々な指標値を計算します。それを同業他社の数値や自社の過去の数値あるいは目標値と比較して業績判断や業務改善につなげるわけです。また、独自の管理指標を考案して目標と実績の比較分析などを行うこともあります。

 一般に経営分析とは管理会計の指標値を用いて企業の経営状況を評価することを言いますが、経営に関する指標値はたくさんあります。それぞれの指標値にそれなりの意味があり、数値が高いほうがいいとか低いほうがいいとかは言えますが、良否の判定をする明確な規範数値はと問われれば、論理的な回答はできないのではないでしょうか。

 例えば総資本経常利益率です。この比率は、損益計算書の経常利益を貸借対照表の資産合計(または負債と純資産の合計)で除してパーセント表示したものです。企業の経営力を判断するうえで重要な指標とされますが、どの程度以上あれば良いのでしょうか?
 以前は5%前後と言われていました。超低金利の現在では、2~3%という人もいますし、逆に企業にとって金利負担が軽いのだから10%程度なければいけないという人もいます。しかし、何れの説明でも明確な根拠などはないのです。結局は黒字企業の平均値や過去における自社の実績値などをもとに目標値を設定するしかありません。

 それでは、経営指標値は全く企業経営に役に立たないのでしょうか?決してそうではないと思います。数多くある経営指標値の中から、経営の意思決定に有用な指標を探し出し、それなりに根拠のある規範値を設定することは決して不可能ではありません。ただ、教科書にある経営指標値を総花的に羅列しても仕方がありません。自社の経営課題に密接に関連する指標を選ぶことが必要ですし、場合によっては独自に新しい指標値を作って活用するほうがいいでしょう。

 以前、統計数値から企業業績の評価をするために経営指標値を用いた評価関数を作成したことがありますが、その時の結果では、「総資本経常利益率」、「経営安全率」、「自己資本比率」等が評価指標として有効でした。
次回からは主要な経営指標についての解説をしたいと思います。

5.平均の話

 経営指標の話をする前に、平均について考えてみます。平均値と言えば通常は相加平均(データの合計をデータ数で除したもの)を指します。英語ではaverageまたはmeanです。しかし、これとは別に中央値(median), 最頻値(mode)というものもあります。

 一般に自然界の事象には正規分布をするものが多くあるとされます。例えば、1本の桜の木の葉を全て取ってその長さを計り、横軸に葉長、縦軸に枚数をプロットすれば、ある長さを中心に釣鐘状のグラフが得られるでしょう。人間の身長についても同様でしょう。
 このような場合には、平均値も中央値も最頻値も同じ値になります。つまり、平均値が出現するあらゆる値のちょうど中央の値になり、かつ、それが最も頻繁に出現する値になるという訳です。この場合には平均値は有用な値となります。

 しかし、常にそうとは限りません。特に人間の営みの結果においては正規分布などあり得ないと言ってもいいでしょう。そうなると、平均値は人を欺く数値となってしまいます。
 2003年9月に金融広報中央委員会から発表された「家計の金融資産に関する世論調査」では、貯蓄を持っている人の平均貯蓄額は1460万円だったそうです。この数値を見て、「へぇー、そんなに持っているのか!」と思った人も多いでしょう。
これには明らかに数少ないお金持ちの貯蓄額が大きく影響しているのです。頻度の少ない大きな値が平均値を引き上げるというのが経済事象でも一般的です。

 企業経営においても同じことが言えます。従って、同業者平均の年商が○億円だとか、宮城県内の事業所の平均給与年額が○百万円だという統計数値は、冷静に受け止める必要があります。これらは平均値でしょうが中央値や最頻値はもっとずっと下にあるはずです。だからと言って安心していいですよということではありませんが、これらの数値を鵜呑みにして自社の数値と比較してもあまり意味がないということです。

 一方、正規分布をしているとは言えないにしても、平均値がもっと役に立つ指標値もあります。例えば、1人当りの付加価値額や売上高経常利益率といった指標です。これらの指標も頻度の少ない大きな値が平均値を引き上げることは同じです。しかし、これらは個々のデータが大きく分散するということは考え難く、大部分のデータが比較的狭い範囲に収まるものだからです。

 もうひとつ大切なことは、指標値を計算するための標本が適正なものかどうかということです。恣意的に標本を選択すれば、平均値など何とでも操作できてしまいます。恣意的でないにしても、いわゆる標本調査のバイアスがかかる事例も多くあります。
 これはアンケート調査を考えてみれば良くわかります。「○○○を実践したことがありますか?」という質問に対して、そのことに全く興味のない人や実践件数が1件もない人は、そのアンケートに回答するインセンティブがもともと低いものです。結果として○○○を実践した人の割合は実態より高くなる傾向にあります。

 統計数値を使う場合には、以上のようなことを十分に考慮しなければならないということです。
 次回からは本当に主要な経営指標についての解説を致します。

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