会計情報

「中小企業の会計に関する指針」について

 平成14年6月に中小企業庁が「中小企業の会計に関する研究会報告書」を発表しました。これは、中小企業が資金調達先の多様化や取引先の拡大等を見据えて、会計の質の向上を図る取組みを促進する目的で行われました。
 これを受けて、平成14年12月に日本税理士会連合会が「中小会社会計基準」を、平成15年6月に日本公認会計士協会が「中小企業の会計のあり方に関する研究報告」をそれぞれまとめました。これらを統合するかたちで平成17年8月に公表されたのが「中小企業の会計に関する指針」です。
 その後、会社法、会社法施行規則及び会社計算規則の制定や改正に伴い、平成18年4月、平成19年4月、平成20年5月に改正が行われました。

 この指針の役割と今後の展望について考えてみます。

1.指針の役割

 そもそも中小企業庁が研究報告書を発表したのは、中小企業が適用できる「公正な会計慣行」とは何かが十分に明確になっていないとの指摘があったからとされています。わが国には「企業会計原則」と関連の個別会計基準がありますが、これらは会計基準のグローバルスタンダードの流れの中で、時価会計を中心とした改正がたびたび行われるに及んで、非公開の中小零細企業の会計基準としては不適切ではないかとの意見も多く表明されるに至りました。
 非公開会社と雖も社会に存在する以上は適正な会計処理によって利害関係者に対して正確な情報を提供する義務があります。従って、中小企業の実態に合った何らかの会計基準が求められるところでした。本指針は「会計基準」という名称ではありませんが、実質的に中小企業が拠るべき会計の基準として運用されてきております。
 一部の金融機関では、融資の際に「中小企業の会計に関する指針」の適用に関するチェックリストの提出を求め、金利の優遇措置を実施しています。
 この指針の適用において、会社側から聞かれる話はおおよそ以下のようなことに尽きると思われます。

① 貸倒損失・貸倒引当金の処理が厳しい
② 減価償却費の計上は任意ではないのか
③ 税務上認められない引当金を計上しなければならないのか
④ 時価評価はどの程度まで適用すべきなのか

 しかし、この指針に盛り込まれている程度の内容は、中小企業の会計にも要求されるべきものです。法人税法上損金になるか否かは別の問題です。なお、時価評価については、金額的な重要性というフィルターを通して、明らかに減損している資産は評価減するということで良いと思われます。また、税効果会計についても重要性が認められなければ適用しなくても良いこととされています。
 従来中小企業においては、税務会計と言われるように法人税法の規定に従った会計処理が多く見受けられましたが、今後は企業の業績を正しく表示するという観点からこの指針に沿った会計処理を行うことが求められます。

2.今後の展望

 アメリカの会計基準とEUの会計基準が一体となり、IASB(国際会計基準審議会)という組織が世界共通の会計基準の制定に動いています。最近ではIFRS(国際財務報告基準)の適用義務付けの動きがあります。日本でも2015年には上場企業に対する強制適用があるとされています。
 このIFRSは、従来の企業利益(収益-費用)の概念を覆す「包括利益」の考え方をとるものとされます。今までの損益計算の後に、廃止事業による損失や有価証券の評価損益、年金の運用損益、為替換算損益等を加えた総体での企業利益を表示することとなります。
 大企業だけの話で関係ないと言われるかもしれませんが、上場企業の取引相手となる中堅・中小企業にも影響が及ぶかもしれません。この会計基準の概要を一瞥すると、基準作りの好きな人達のための基準としか言い様がありません。国内取引のみの中小企業にとっては不必要なものでしょう。
 このような基準が一律に適用されることがないようにするためにも、「中小企業の会計に関する指針」を継続的に発展させて、日本の大部分の中小企業が拠るべき会計基準として確立していく必要があると考えます。

変動損益計算書の有効性

 ご承知の通り、管理会計の分野では昔から変動損益計算が用いられています。企業の費用を変動費と固定費に分解し、固定費を賄う限界利益を得るための必要売上高を損益分岐点売上高とするものです。この前提には、当然のことながら売上高の増減と比例して増減するのが変動費、売上の変動に影響されずに発生する費用を固定費という考え方があります。

 確かに、変動損益計算書を作成すれば、売上高に対する変動費の割合(変動費率)が求められ、(1-変動比率)が売上高に対する限界利益の割合(限界利益率)となって、この限界利益率が売上高に対する固定費(製造原価および販売管理費中の固定経費から営業外収益を減算して営業外費用を加算したもの)の割合(固定費率)を上回れば経常黒字となるというスッキリした理解が得られます。

 何よりも重要なのは、この限界利益率を用いて利益計画の策定が容易にできるという点です。目標利益と固定費予算が固まれば、限界利益率をいくらに設定するかによって必要売上高が決まります。一方、財務会計における損益計算書(外部報告様式の損益計算書)を用いた場合には、費用が固変分解されておらず、費用予算を積み上げたところで必要売上高は算出できません。

 このように理屈のうえでは変動損益計算の考え方は非常に明快で有用なものですが、実際の経営の現場ではそう簡単にはいきません。肝心の費用の固変分解が簡単ではないからです。人件費をとってみても、残業手当は変動費ではないか?そうであれば、社会保険料は固定費とされるが、残業手当分に対応する社会保険料も変動費になるのではなどという疑問が生じ、費用を厳密に固変分解する作業は大変なものです。

 これでは埒があかないので、通常は外部購入原価(企業外から提供を受ける商品・材料仕入高、外注加工費、原価消耗品費のうち当期売上対応分)のみを変動費とし、他の費用は全て固定費とするのが一般的です。それではインチキではないかと言われるかもしれませんが、割り切りも必要です。

 そうすると、販売業においては変動費=売上原価となりますので、変動損益計算書も財務会計の損益計算書も同じくなってしまいます。販売業にとってはとりたてて変動損益計算書などという必要はないわけです。しかし、販売業においては、限界利益率が異なる商品群別の売上計画が重要となります。前期の決算書の売上高総利益率を用いて利益計画を策定しても、売上の構成割合が異なれば予定の限界利益が得られないという結果になることがあります。そのような意味でやはり変動損益の考え方は必要となります。

 サービス業ではどうでしょうか?サービス業といっても様々ですから、一概には言えませんが、総じて変動原価という考え方をとらない、あるいは変動費などないという企業も多いようです。サービス業の場合には単位人件費当たりの売上高のほうが重要でしょう。

 製造業の場合には、伝統的な全部原価計算の仕組みが採用されているところも多いでしょう。製造業の原価計算では、製造原価に分類される費目は変動費と固定費の区別なく、全てがその対象になります。工場の家賃も機械の減価償却費も製品の原価に割り振られます。これによって各種製品の1単位当たりの予定製造原価を算定し、その製品の販売単価を設定する根拠とします。もちろん製造業においても、簡略化した原価計算ということで変動損益計算の考え方を取り入れることは可能です。人手が足りなくて全部原価計算ができないという企業では変動損益計算書が役に立ちます。ただし、それはあくまでも内部管理のための資料であって、決算のたな卸しにおいては製造原価中の固定費もたな卸しの対象とすることが原則です。

 建設業にも伝統的に工事原価計算の考え方があります。これは個別工事ごとに工事原価を集約するもので、やはり変動原価だけでなく固定原価も割り振られます。変動原価計算の立場では常用の労務費は固定費として扱うことになるでしょうが、現場ごとの利益を捉えるためには労務費の配布も必要です。個々の工事の利益を把握するという観点からすれば、変動損益計算書はあまり馴染めないようです。工事によって材料費と外注費の比率が大きく異なることもその要因のひとつです。それでも、材料費と外注費との合計額が完成工事高に占める比率の管理は重要です。

 以上のように変動損益計算書は業種、業態に応じてセグメントした形で工夫して活用することが重要です。

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